雪のように白い



 オキクルミは隣に立つアマテラスをそっと盗み見た。
 薄暗がりに浮かぶ箱舟ヤマト――その威容を見上げる表情は読めない。
「アマテラス……」
 墨のように黒い瞳がこちらを向くのがわかる。改めて見直すと、その姿はまるで淡い
光でも放っているかのようにぼんやりと輝いていた。
 それはアマテラスが大神たる証であると、今のオキクルミには思える。
「箱舟ヤマトが天への道だと言うならば――お前はあれに乗るべきだ」
 青鈍色に輝く宝剣クトネシリカによって蘇った、天から落ちた舟ヤマト。
 アマテラスと白野威、二人の力でこの箱舟が再び動き出す事は運命であったのか。
 その瞬間に立ち会えた事は、己に取って良い事だったのか。
 世を見行わす大神の、天への帰還。それはこの地上からアマテラスがいなくなると
言う事だ。きっと二度と(まみ)える事は無いだろう。
 そこまで考えて、オキクルミは己のおかしな思考に仮面の下で苦笑した。
 アマテラスに出会ってからと言うもの、自分はおかしくなってしまったのだろうか。
「短い間だったがお前と行動を共にして、お前が何者なのかは俺にも察しが付いた。
この先はきっと俺たちには立ち入る事は許されない、神々の領域だ」
 アマテラスは大神、そして自分はただの人間。
 この胸の内に蟠る感情を吐き出すなど、してはならない。
「そうだろう? アマテラス」
 思わず伸ばしそうになる手を何とか押し留めて、オキクルミはアマテラスを見詰める。
 するとアマテラスは何を思ったかオキクルミの手に自らの頭を摺り寄せ、一声ワンと
鳴くと身を翻し駆け出した。それが別れの挨拶だったのか、それとも別の何かだった
のか、オキクルミにはわからない。
「アマテラス……」
 虹の橋へ向かって駆けて行く後ろ姿に、ふとオキクルミの脳裏に確信めいた思いが
過ぎった。
 それは、アマテラスが"白野威"と呼ばれるようになった所以。
 このウエペケレにも白いオオカミ白野威とコロポックルの神話が残っている。そして
天から逃げて来たヤマトがこのラヨチ湖に沈んだ。
 つまり、百年前アマテラスが地上に降臨したのはこのカムイ。
 ここで相棒となるコロポックルと出会い、アマテラスの旅は始まったのだ。
 このカムイの大地のように白く美しく、しかし厳しいその姿。
 その荘厳なる佇まいに、人々はおそれを込めて呼んだのだ。

 大いなる雪原の化身――――"白野威"と。

「アマテラス……死ぬなよ」
 手に残る温もりを失くさぬよう、強く握り締めながらオキクルミは祈った。





     終





本編台詞の裏を読めシリーズ第一弾(長いよ)。大神クリア後一気に書きました。
すぐ近くにサマイクルいる筈なんですがお菊の視界には入ってないようです(笑)。
だってサマイクル影薄いんだもん(オイ)。EDの時もサマイクルいるなんて全然気付かなかったし(爆)。
お菊とピリカしか見えて無かったYO!(笑)
オキクルミは最初アマ公の事ただの強いオオカミぐらいにしか思ってなかったけど、
イリワク神殿で白野威に助けられて一気に意識し出すと良い(私が)。
オオカミ形態で並ぶとアマ公ちっちゃくてめちゃ和みます。一緒にくっついて丸まってお昼寝してるといいなぁ。