「都中に立ち込め
人々を苦しめていた毒の霧は―」
「都の貴族宝帝の体に巣食う妖怪
エキビョウの仕業だったが―」
「積年の怨念を宿した妖刀金釘こそ
この妖怪の正体だったのじゃ」
「そしてアマテラスとイッスンは
この難敵に立ち向かい―」
「見事退治して見せたのじゃった」
「エキビョウが滅び去るとこの妖怪に
操られていた帝は正気に返り―」
「都を覆っていた毒の霧も
すっかり消え失せた」
「戦いを終えて一息付くアマテラスたち」
「…じゃが思いも寄らぬ光景が
その安らぎの時を引き裂いた」
「バラバラに砕け散ったはずの
妖刀金釘から―」
「もくもくと立ち昇った
見覚えのある奇怪な妖気」
「…闇のように真っ黒い
妖刀金釘の怨霊じゃ」
「そしてそれは間違いなく―」
「あのヤマタノオロチを退治した時に
空へ散った黒い影の一つだったのじゃ」
「その淀んだ怨霊はあっという間に
空へ昇り―」
「遥か海の彼方へ飛び去って行った」
「まるで己の中間へその身を
捧げに行くかのように…」
「…アマテラスたちには休む時間など
ありはしなかった」
「都の人々が元の生活を
取り戻すには―」
「海で暴れている水龍の脅威も
まだ残っておったのじゃから…」
「おっとそれからこのお話にも
もう少し続きがあるんじゃった」
「ホレ…お前さんも一つ
アレを忘れてはおらんかの…?」

イッスン
「ヘッへザマ見ろィ!」
イッスン
「このイッスンさまに楯突くには―」
イッスン
「あと十尺は足りないってンだ!」
イッスン
「さァてアマ公! 妖怪退治も終わったし
ここで一丁いつもの勝ち鬨を―」
イッスン
「…っといけねェ!
スッカリ忘れちまってたぜェ!」
イッスン
「牢にはまだカグヤの姉ちゃんが
捕らわれてるんだっけェ?」
イッスン
「アマ公…このおっさん
まだ寝てるようだなァ」
イッスン
「…起こして説明するのも面倒だし―」
イッスン
「一丁このままおっさんを操って
カギを開けさせる
ってのはどうだィ?」
イッスン
「…分かってないようだなァ
まァ見てなってェ!」
(胃の中で飛び跳ねるイッスン)
イッスン
「フゥ…まずはこうやって
胃袋を引っ掻き回して―」
(突然胃が激しく揺れ始める)
イッスン
「うわっとっとォ!?」


(宝帝が起き上がる)
イッスン
「……」
イッスン
「…!?」
イッスン
「お…おいアマ公大丈夫かァ?」
イッスン
「ホラ! 何とか帝のおっさんを
立ち上がらせる事は出来たようだぜェ」
イッスン
「それじゃこのまま
おっさんを操って―」
イッスン
「カグヤの姉ちゃんの所まで
行こうじゃねェか!」


(逆方向に進む)
イッスン
「おっとっとっとォ…」
イッスン
「…中々人間を操るってのも
上手く行かないぜェ」
イッスン
「こっちじゃなくてカグヤの姉ちゃんの
牢屋の方に進ませなきゃなァ」
イッスン
「それじゃ…よいしょっとォ!」


(廊下を進む)
兵士(廊下)
「宝帝さま!?
歩き回れるほど回復されたのですか!?」
兵士(廊下)
「牢にいるカグヤなる者…帝さまに
仰せつかった通り捕らえましたが―」
兵士(廊下)
「罪なき者を牢に入れるなどと
一体なぜそのような命を…」
兵士(廊下)
「い…いえ! 私には帝さまの
崇高なお考えが測り兼ねます故…!」


(更に進む)
兵士(庭)
「宝帝さま! …医者の治療もお受けに
ならないと申されておりましたが―」
兵士(庭)
「ここはしっかり医者の下で
療養されては頂けないでしょうか?」
兵士(庭)
「都の民の中には
この屋敷が病原だと申す者まで…」
兵士(庭)
「い…いえ! 私はそのような考えは
一切持っておりませんが…!」


(牢屋に近付く)
カグヤ
「あ…貴方は宝帝!?」
カグヤ
「貴方が現れたということは…
まさかあのお二人は…!?」
カグヤ
「…嗚呼そんな!
私が巻き込んでしまったばっかりに!」
カグヤ
「私は…私は
何とお詫びをしていいのか…!」
イッスン
「…そうだなァ」
イッスン
「それじゃまずは月見だんごを百個ほど
用意してもらおうかィ」
カグヤ
「えっ?」
イッスン
「…なぁんてなァプッハハハハハ!」
「その声は…!?」
イッスン
「竹姉ちゃんオイラたちがそう簡単に
くたばってたまるかよォ?」
イッスン
「おっさん腹ン中の悪い虫に
操られちまってたけど―」
イッスン
「オイラたちが片付けといてやったから
その内元に戻るだろうぜェ」
イッスン
「おっとその前に…おっさんには
牢のカギを開けてもらうとするかィ!」
イッスン
「よっこらせっとォ!」
カグヤ
「良かった…」
カグヤ
「…本当にホッとしました!」
イッスン
「ホレ竹姉ちゃん
立ち話の時間はないぜェ」
イッスン
「どうやらこのおっさん…
妖怪に操られていただけのようだが―」
イッスン
「屋敷中が大騒ぎにならないうちに
どこかへ逃げた方が面倒がねェや!」
イッスン
「…さァてアマ公
オイラたちも出るとするかァ!」
イッスン
「ええと…ここをこうして…
コチョコチョコチョ!」
(宝帝がくしゃみをして外に飛び出すアマテラス)
イッスン
「アマ公その顔…
やっぱりアレをやりたいのかァ?」
イッスン
「…確かにアレがないと
締まりが悪いからなァ!」
イッスン
「竹姉ちゃんも無事逃げたようだし―」
イッスン
「それじゃ一丁帝のおっさんに
寝覚めのイッパツ決めてやりなァ!」

宝帝
「う〜む…朕は今まで
一体何をしていたのじゃろうか?」
宝帝
「病で寝込んでいたらしいのじゃが…
まったく覚えがない」
宝帝
「…確か都に竹細工を売りに来た
カグヤという名の娘が持つ―」
宝帝
火の海を渡る事が出来る秘法
ひと目見ようとしたんじゃが…」
宝帝
「彼女をこの屋敷に招こうと
したところから記憶が途切れておる」
宝帝
「まるで…憑き物に
憑かれていたかのようじゃ」
イッスン
「人騒がせなおっさんだぜェ」
イッスン
「まァ竹姉ちゃんも無事だったし…
今回はお咎めナシにしてやらァ」
宝帝
「白いオオカミと…
そして面妖な動く飴玉―」
宝帝
「眠っている間
夢の中で見たような気もするが…」
宝帝
「ともかくこのような失態
早くヒミコ殿にお詫びせねば!」
イッスン
「ヒミコ…?」
イッスン
「そ…そうだァ!」
イッスン
「アマ公!
…都中を巻き込んだ今回の騒動―」
イッスン
女王ヒミコがダンマリ
決め込んでるたァどういう了見だィ!」
イッスン
「てめェの屋敷にこもりっきりで
高みの見物なんて承知出来ねェ」
イッスン
「一言文句を言わねェと
ムカッ腹が収まらないぜェ!」
宝帝
「…ところで白いオオカミよ」
宝帝
「お前の顔を見ておると
なぜか心が和むのう…」
宝帝
「腹の内まで見透かされてるような…
そんな安心感があるわい」
イッスン
「…そりゃアンタの腹の中は
知り尽くしてるからなァ」
宝帝
「朕は妖怪牙という秘宝を
集めておるのじゃが―」
宝帝
「お前にはその妖怪牙と交換で
朕の宝物をくれてやっても良いぞ」
宝帝
「オオカミに宝をやるなどと
馬鹿にされようとも―」
宝帝
「お前は朕の幸運のオオカミ…
きっとご利益があるはずじゃ!」
宝帝
「…お前もその鼻で妖怪牙くらい
拾い集めているのであろう?」
宝帝
「さぁその牙と朕の宝物を
交換と行こうではないか!」

(妖器 霧禁ビョウタンを交換すると幽神が出現)
幽神
「おお…
我らが慈母アマテラス大神」
幽神
「御許より離れし折
霧散したる我が身は二方に裂かれー」
幽神
「その半身この邪なる瓢箪に
封ぜられ侍りぬ」
幽神
「その封印解かれ
この身一つになりし今―」
幽神
「我が真なる力霧飛の妙技を
御許に捧げ奉らん!」

イッスン
「ヒョウタンから筆業とは…
こりゃたまげたぜェ!」
イッスン
「宝帝もこんなモンが入ってるとは
知らなかっただろうなァ」
イッスン
「その霧飛って筆業…肝心な使い方は
オイラも良く知らねェけど―」
イッスン
「まァとにかく儲けたじゃねェか!」


宝帝
「…よく見ると妖怪牙には
一つ一つ違った表情がある」
宝帝
「朕はそんな牙たちを
一つでも多く集めたいのじゃ」
宝帝
「さぁお前の持っている牙と朕の宝物を
交換と行こうではないか!」

宝帝
「また妖怪牙を集めたら
ここへ交換に来てくれよ!」

(頭突き)
宝帝
「おっほっほ
お前はいつも元気だのう!」


兵士(廊下)
「宝帝さまはすっかり元気になられて
元の優しい帝さまに戻られた」
兵士(廊下)
「しかし…まるで憑き物にでも
憑かれていたかのようであったな」
兵士(廊下)
「今このナカツクニを
不穏な空気が包み込んでいるが―」
兵士(廊下)
「この西安京にもその魔手は
伸びているのだろうか…?」


兵士(廊下)
「とにかく帝さまが回復されて
ひと安心だ!」
兵士(廊下)
「後は…宝物集めに興じる余り
政をお忘れにならなければよいがなぁ」

(頭突き)
兵士(廊下)
「こんな狭い所で暴れるなよ!」


兵士(庭)
「宝帝さまが元気になられた途端…
都から毒気がすっかり消え失せた」
兵士(庭)
「…やはりあれは宝帝さまに憑いていた
物の怪の仕業だったのだろうか?」
兵士(庭)
「ともかくこれで都の民も
病の苦しみから解かれると良いが…」


兵士(庭)
「あのカグヤという娘…姿を見ないが
無事牢を出たのだろうか?」
兵士(庭)
「帝さまのご乱心が物の怪の仕業だと
するなら―」
兵士(庭)
「なぜあのような娘を
捕らえさえたりしたのだろう…」

(頭突き)
兵士(庭)
「おっとっと!」


衛兵(右)
「白いオオカミ…お前が
屋敷の中から出て来たと言う事は―」
衛兵(右)
「…やはりどこかから
忍び込んでおったのだな!?」
衛兵(右)
「……」
衛兵(右)
「よくやってくれた…礼を言うぞ」


衛兵(右)
「それよりお前…
よく屋敷の中へ忍び込めたなぁ?」
衛兵(右)
「お前はオオカミにしては
神々しい毛並みをしているが―」
衛兵(右)
「何か特別な術が使えるのなら…
俺にも教えてくれんか?」
衛兵(右)
「…この門番の仕事を
サボれるような術をな!」

(頭突き)
衛兵(右)
「な…何をする!?」


衛兵(左)
「やあオオカミくん!
やっぱりお前屋敷に忍び込んでたな?」
衛兵(左)
「実は何となく気付いてたんだけど…
見ない振りしてたんだ」
衛兵(左)
「…なぜかお前なら
何かを変えてくれるような気がしてさ」
衛兵(左)
「屋敷で何があったのかは
知らないけど―」
衛兵(左)
「宝帝さまが元通りのやさしい
主君さまに戻って良かったよ!」
衛兵(左)
「そうそう! …あのカグヤって娘も
無事牢から出してもらえたみたいだね」
衛兵(左)
「さっき屋敷の外へ
元気に走って行ったよ!」


衛兵(左)
「あのカグヤって娘…毎晩牢の中から
夜空を見上げてたんだ」
衛兵(左)
「…きっと寂しくて
お月さまとお話してたんだろうねぇ」

(頭突き)
衛兵(左)
「オオカミ君やめてよ!」


(屋敷の外のカグヤに近付く)
イッスン
「よォ竹姉ちゃん!」
イッスン
「せっかく
自由の身になったってのに―」
イッスン
「…こんな所でポァッと
何やってんだィ?」
カグヤ
「…おや貴方たちはあの時のお二人!」
カグヤ
「お会いした時は米粒のようでしたが―」
カグヤ
「こんなにも凛々しい
お姿だったのですね」
イッスン
「そ…そうかィ!?」
イッスン
「オイラぁよく言われるんだよなァ
凛々しいとか美々しいとかよォ!」
カグヤ
「え!?
あ…そうですねイッスンさんも…」
イッスン
「それより竹姉ちゃん!
今の都は何かと物騒だから―」
イッスン
「早いとこ竹じいさんの所に
帰ったらどうだィ?」
イッスン
「宝帝のおっさん…アンタの持ってる
何とかって宝に目が眩んだんだろォ?」
イッスン
「…またヘンな虫が寄り付かないうちに
都を離れた方がいいぜェ!」
イッスン
「それにじいさんも…
寂しそうにしてたしなァ」
カグヤ
「!!」
カグヤ
「…そうですか」
カグヤ
「あの方は私を本当の孫のように
可愛がって下さいました」
カグヤ
「私も…早く帰りたいのは
山々なのですが…」
イッスン
「…本当の孫のようにィ?」
イッスン
「て事は竹姉ちゃん…
アンタ本当の家族は他にいるのかィ?」
イッスン
「…まァ事情は良く知らねェが―」
イッスン
「竹じいさんが恋しいなら
普通に帰りゃいいじゃねェか」
カグヤ
「……」
カグヤ
「私は自分が―」
カグヤ
一体何者なのか…何処から
来たのかさえ知りません

カグヤ
「何もかも忘れて…竹林の中に
倒れていた記憶しかないのです」
カグヤ
「そんな私をジジさまは家に招き
手厚く看護してくれました」
カグヤ
「…その恩に報いるため―」
カグヤ
「私はジジさまの竹作りを手伝って
暮らしていたのです」
イッスン
「だからよォ…」
イッスン
「それならどうして
早く帰ってやらないんだってェの!」
カグヤ
「私…昔の事は
一切覚えていないのですが―」
カグヤ
「この度の騒動で一つだけ
思い出した事があるのです」

(頭突き)
カグヤ
「きゃっ!?」


カグヤ
「…牢に閉じ込められている間
ずっと考えておりました」
カグヤ
「私は遠い昔…
牢のように真っ暗な部屋の中で―」
カグヤ
ひたすら何かに没頭していた
気がする…と」
カグヤ
「そして私は―」
カグヤ
私は一刻も早く
そこに帰らなくてはならない!

カグヤ
「……」
カグヤ
「…そう感じたんです」
イッスン
「う〜ん…
随分漠然とした話だなァ」
イッスン
「帰るってそりゃ一体どこなんだィ?」
カグヤ
「頭の中に閃光のように蘇る
失われた記憶の断片―」
カグヤ
「…それを手繰ると
一つの幻が見えてきます」
カグヤ
「竹林の中…
地に記された王家の紋章…」
カグヤ
「そうあの場所に―」
カグヤ
笹部郷に向かわねば!
イッスン
「と…突然どうしたんだィ?」
イッスン
「さっきまで暗い部屋の中でどうのって
言ってたじゃねェか」
イッスン
「それを急に…笹部郷だってェ?」
カグヤ
「私が帰るべき場所がどこにあるのか…
それは分かりません」
カグヤ
「でも何か…
胸に押し寄せる激しい感情が―」
カグヤ
「そこへ向かえと
私の背中を押すんです!」
カグヤ
「早く王家の紋章が待つ
あの場所に―」
カグヤ
笹部郷に向かわねば!」
(走り去るカグヤ)
イッスン
「ちょ…ちょっと竹姉ちゃん!」
イッスン
「…行っちまったァ」


(笹部郷・竹林のカグヤたちに近付く)
竹取翁
「フニャ〜!!
カグヤ…カグヤじゃないの!」
竹取翁
「お前が西安京で
突然宝帝さまに召し取られてから―」
竹取翁
「ワシはもう二度とお前に会えないと
思ってたのよ!」
竹取翁
「カグヤ…カグヤ〜!」
カグヤ
「…ジジさま
本当にお久し振りです…!」
カグヤ
「そんなにお皺が増えて…
随分ご心配をかけてしまったのですね」
カグヤ
「ジジさま…グスッ!」
イッスン
「竹じいさんに竹姉ちゃん…
やっぱりここでバッタリかァ」
イッスン
「…良かったじゃねェか二人とも!」
竹取翁
「カグヤ!
…これからはずっと一緒に暮らそうね」
竹取翁
「またワシの竹細工
一緒に売りに行こうね!」
カグヤ
「えっ!?」
カグヤ
「……」
竹取翁
「フニャ?」
竹取翁
「…どうしたのカグヤ?」
竹取翁
「も…もしかしてまた宝帝の所に
帰らなきゃいけないの?」
カグヤ
「いえ…そうではありません」
カグヤ
「…でも私は―」
カグヤ
「私はこのままジジさまとは
一緒に暮らせないのです」
竹取翁
「え…え…え…」
竹取翁
えええ〜っ!?
竹取翁
「どどど…どういう事なのカグヤ?」
竹取翁
「もしかしてカケオチ?
そ…それともタカトビ?」
カグヤ
「…ジジさまがここに来ているとは
知りませんでした」
カグヤ
「本当はジジさまに会わずに
行こうと思っていたんです」
竹取翁
「行くって…どこへ?」
カグヤ
「分かりません…ただ―」
カグヤ
「笹部郷の地面に刻まれた
王家の紋章―」
カグヤ
「この紋章が私を呼ぶのです!」
(カグヤが両手を掲げると紋章の中央に穴が)
イッスン
「な…何だァ?」
竹取翁
「カグヤ な…何をしてるの?」
カグヤ
「何か…得体の知れない激しい感情が
私を突き動かしました」
カグヤ
「この紋章の下…
遥か地下の奥底に―」
カグヤ
私の失われた記憶に纏わるもの
待っているのです!」
カグヤ
「私…行きます!」
カグヤ
「この穴の中に入って
それを見届けに行って参ります!」
(穴の中に飛び込むカグヤ)
竹取翁
「カグヤ…カグヤ!!」
イッスン
「竹姉ちゃん一人じゃ危ねェ!」
イッスン
「アマ公オイラたちも行くぜェ!」

(成功すると地中から巨大なロケットが出現、自動で夜に)
イッスン
「た…竹姉ちゃん…」
イッスン
「ななな…何だいこの―」
イッスン
「この馬鹿デカい
鉄のタケノコはよォ!?」
カグヤ
「これが私を―」
カグヤ
「この物体が私を呼んでいたのですね」
カグヤ
「私に…出生の秘密を知らせるために!」
竹取翁
「……」
竹取翁
「カグヤ…」
竹取翁
「…ワシ知ってたの」
竹取翁
「この大きなタケノコが―」
竹取翁
「お前を拾った
この竹林の下に埋っているのを…」
カグヤ
「!!」
カグヤ
「ジ…ジジさま…」
竹取翁
「うんと昔…ワシがこの辺りへ
竹を取りに来た時―」
竹取翁
「突然この大きなタケノコが
ワシの目の前に現れたの」
竹取翁
「そして…その中から
冷たくなったお前が転がり出て―」
竹取翁
「その後このタケノコはまた
地面の中にもぐって行ったのよね…」
竹取翁
「お前は氷のように冷たくて
今にも死にそうだったから―」
竹取翁
「ワシ慌ててお前を負ぶって
家に連れ帰った」
竹取翁
「そして…死んだばあさんと一緒に
お前を看病したの」
竹取翁
「ばあさんもワシも
ずっと子供が欲しかったから―」
竹取翁
「お前の事が
天からの授かり物のように思えてねぇ」
竹取翁
「…それで楽しく暮らすうちに
お前にこの事を話せなくなっちゃった」
竹取翁
「だって…もしもお前に話したら…」
竹取翁
「お前が
この不思議なタケノコと一緒に―」
竹取翁
「ワシらの目の前から
消えそうな気がしてねぇ…!」
竹取翁
「…ふええ〜ん!」
竹取翁
「ふえええええ〜ん!」
カグヤ
「ジジさま…!」
(抱き合う二人)
イッスン
「……」
イッスン
「…グスッ」
カグヤ
「私だって…ジジさまや
亡くなったババさまの事を―」
カグヤ
「本当の家族のように思っていました!」
カグヤ
「そして…
その気持ちはずっと変わりません」
カグヤ
「今でも私の家は―」
カグヤ
「ジジさまの所だけです!」
カグヤ
「でもこのままでは…
私はジジさまとは暮らせない」
カグヤ
「自分が何者かも分からず―」
カグヤ
「激しい感情に身悶えながら
ただじっとしてはいられないのです!」
カグヤ
「…だから私は自分自身の起源を
明らかにして―」
カグヤ
「堂々と暮らせるようになって
必ず帰って来ます」
カグヤ
「お願いジジさま…」
カグヤ
「カグヤを笑顔で見送って!」
竹取翁
「うん…うん!」
竹取翁
「行っておいでカグヤ」
竹取翁
「そして…行った先で何があっても―」
竹取翁
「これだけは絶対忘れないでね」
竹取翁
「お前はワシの孫だから…」
竹取翁
「ワシのかわいい孫だからね!」
カグヤ
「ジジさま!」
(抱き合う二人)
イッスン
「かわいい孫…かァ」
イッスン
「……」
イッスン
「イ…いや別にオイラぁ
故郷を思い出したワケじゃないぜェ!」
カグヤ
「イッスンさん
そしてアマテラスさん…」
カグヤ
「お二人には本当にお世話になりました」
カグヤ
「お礼と言うほどのものでは
ありませんが―」
カグヤ
「…これを受け取っては
頂けないでしょうか」
『 神飾 火避けの石簡 をもらった! 』
カグヤ
「記憶を失っていた私が持っていた
出生の鍵を握る唯一の手掛かりでした」
カグヤ
「でも…ここまで辿り着いた今の私には
もう必要ありません」
カグヤ
「是非お二人の旅にお役立て下さい」
カグヤ
「…それでは―」
カグヤ
「カグヤは旅立ちます」
カグヤ
「ありがとうお二人とも」
カグヤ
「ありがとうジジさま!」
カグヤ
「また会う日まで…どうかお元気で!」
(ロケットに乗り飛び立つカグヤ、見送る竹取翁の目には涙が)
イッスン
「行っちまったなァ…」
イッスン
「飛んでった先に何があるのか
見当もつかねェが―」
イッスン
「…竹姉ちゃんの旅の無事を祈ろうぜェ」
イッスン
「……」
イッスン
「おいアマ公!
ポアッとしてんじゃねェや!」
イッスン
「竹姉ちゃんの世話で
ちょっと遠回りしちまったけど―」
イッスン
「オイラたちにも
やる事はあるじゃねェか」
イッスン
「…ダンマリ決め込んでる
何処ぞの女王サマに―」
イッスン
「キツいお灸を据えに行こうぜェ!」


竹取翁
「カグヤ…行っちゃった」
竹取翁
「そして
やっぱりあの大きなタケノコは―」
竹取翁
「…カグヤを故郷へと誘う
揺りかごだったんだねぇ」
竹取翁
「元気でやるんだよ…カグヤ」


竹取翁
「…ワシは今まで以上に
竹細工作りを頑張っちゃうよ」
竹取翁
「それでカグヤが帰って来るまでに
竹細工御殿を建てちゃうからね!」
竹取翁
「元気でやるんだよ…カグヤ」

(頭突き)
竹取翁
「フニャッ!」
イッスン
「アマ公…お前なりに
じいさんを元気付けようってんだなァ?」
イッスン
「…まァ手加減はしろよォ」